ゴール3:すべての人に健康と福祉を

あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。

ゴール3では、全ての人々が生涯にわたり健康的な生活を営めるようになることが目指されている。妊産婦や乳幼児の健康、さらにHIV/AIDS、マラリア、結核といった感染症の制圧、生活習慣病などの非感染症の防止が求められる。同時に、全ての人々が医療、保健サービスや医薬品にアクセスできるようになるユニバーサル・ヘルス・カバレッジが求められている。

妊産婦の死亡は、助産師の立ち合いのもと衛生的な施設で出産することができれば、大幅に減らすことができる。しかし、とりわけサハラ以南アフリカと南アジア地域では、助産師が立ち会う出産件数は全体の半数以下にすぎない。また、これら地域では家族計画への取組みが遅れている。家族計画を普及させ、妊娠件数全体を減らすことも、妊産婦死亡件数の低下につながる。

一方、ミレニアム開発目標(MDGs)時代の活動を通じて、HIV、マラリア、結核といった感染症の発生件数は世界的に低下した。だがまだ撲滅には至っていない。特に、開発途上国の貧困層にとっては、デング熱などのNTDs(顧みられない熱帯病)は依然として脅威である。貧困層の経済活動や社会生活に支障とならぬような対策が求められる。

さらに、心臓病、呼吸器疾患、癌といった非伝染性疾病による死亡率も依然として高い水準にある。薬物・アルコール依存症も各国で深刻な問題である。また、近年では健康経営というコンセプトが登場し、従業員の健康管理を経営課題とし、戦略的に取り組む経営手法が注目されている。具体的には、従業員の健康診断によるデータを電子的に活用するデータヘルスや、従業員の心の健康を支援する従業員支援プログラムなどが導入されつつある。

ゴール3は3.1から3.dまでの13個のターゲットから構成される。3.1と3.2では、それぞれ妊産婦と乳幼児の死亡率削減が目指される。3.3と3.4は疾病対策に関するターゲットであり、前者はエイズや結核といった感染症、後者は癌や糖尿病といった非感染症への対処がテーマになっている。疾病以外の健康被害もテーマになっており、3.5は薬物やアルコールの乱用、3.6は交通事故、3.7は性と生殖、3.9は漏洩ガス対策などの有害化学物資の管理が対象である。様々な分野から健康や福祉への取り組みが求められる。3.aから3.dでは、保健医療を整備するための実施体制の強化が目指される。3.aはたばこの規制への国際的取組み、3.bはワクチンや医薬品の研究開発支援とアクセス改善、3.cは途上国の保健分野の財政整備や人材の能力向上、そして3.dでは世界規模の保健リスクへの早期対応が対象となっている。

ゴール3のターゲット

3.1 妊産婦の死亡率を削減する
3.2 新生児・5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する
3.3 重篤な伝染病を根絶し、その他の感染症に対処する
3.4 非感染性疾患による若年死亡率を減少させ、精神保健・福祉を促進する
3.5 薬物やアルコール等の乱用防止・治療を強化する
3.6 道路交通事故の死傷者を半減させる
3.7 性と生殖に関する保健サービスを利用できるようにする
3.8 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC) を達成する(すべての人が保健医療サービスを受けられるようにする)。
3.9 環境汚染による死亡と疾病の件数を減らす
3.a たばこの規制を強化する
3.b ワクチンと医薬品の研究開発を支援し、安価な必須医療品及びワクチンへのアクセスを提供する
3.c 開発途上国における保健に関する財政・人材・能力を拡大させる
3.d 健康危険因子の早期警告、緩和・管理能力を強化する

用語

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ

すべての人が、支払い可能な費用で、適切な予防、治療、リハビリといった保健医療サービスが受けられることを意味する。UHCは、健康は人々の共通の権利だという考えのもと、すべての人がお金に困ることなく保健医療サービスを受けられる状態を目指している。2012年12月12日に行われた国連総会では、UHCを国際社会共通の目標とすることが決まり、2014年からは、12月12日を「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デー」とした。また、2016年5月27日に発表された「G7伊勢志摩首脳宣言」において、UHCは中心的な保健課題とされた。

顧みられない熱帯病

熱帯地域の貧困層を中心に蔓延している細菌や寄生虫による感染症のこと。WHOは18の疾患をNTDsと定義しており、代表的なものとして、蚊を媒介して感染するデング熱やリンパ系フィラリア症、サシガメを媒介昆虫として主にラテンアメリカ大陸に蔓延しているシャーガス病などがある。世界のNTDsの感染者数は約10億人にのぼり、その殆どが劣悪な衛生環境に住む開発途上国の貧困層である。NTDsの蔓延によって人々の経済活動や社会生活に支障が及び、国の成長の妨げとなることが懸念されている。

薬物・アルコール依存症

依存症の脳の病気であり、日常生活に支障をきたしているにも関わらず、自らの意思で欲求をコントロールすることが困難な状態になる。アルコールや薬物といった物質を原因とする依存症では、対象の物質を手に入れることを優先的に考えるようになり、本人や家族の健全な社会生活に支障が出る。依存症は孤独感や不安感が原因で始まる場合もあり、誰にでも起こり得る病気である。本人の意思とは関係なく欲求をコントロール出来なくなる病気であるため、根性論で本人を責めても状況は改善しないことが多い。本人や家族だけで抱え込まず、早い段階で専門機関(保健所や精神保健福祉センター)に相談し、適切な治療や周囲のサポートを受ける必要がある。

データヘルス

健康診断や診療報酬明細書(レセプト)などによって電子的に管理されている医療情報を分析した上で行う、より効果的で効率的な保健事業のこと。被保険者の健康情報が電子的に保有されている近年、保険者はその膨大なデータを使って様々な保健課題を把握することが可能となってきた。平成29年には、厚生労働省はデータヘルス改革推進本部を設置し、「国民の健康確保のためのビッグデータ活用推進に関するデータヘルス改革推進計画」を公表している。

従業員支援プログラム

従業員の心の健康を支援するプログラムを指し、1980年代にアメリカの政府機関が企業に普及させた。メンタルヘルス対策としての効果が期待されており、アメリカのフォーチュントップ500の企業のうち、90%以上がEAPを導入していると言われている。日本でも、企業内に産業保健スタッフを配置するケースや、EAPサービスを提供する外部企業と契約するケースがあり、それぞれ注目され始めている。EAPを導入することで、職場環境が改善され、従業員、しいては組織全体の生産性が向上することが期待されている。

漏洩ガス対策

配管や生産プロセス等から漏洩し、大気中に飛散するガス。

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