持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
ゴール14は、海洋資源を保全し持続的な開発を実現するための課題を提起している。海洋は漁業や観光業等を通じて、人類の社会、経済的発展に不可欠な資源を提供する。海洋資源を持続的に開発し、生態系破壊を阻むことは、SDGsの達成にとって重要な課題となる。海洋資源は水質汚染や気候変動といった環境変化に脆弱である。沿岸地域は特に陸上活動による汚染の影響を受けやすい。特に、プラスチックごみが海洋に流れ込むと、徐々に破砕されマイクロプラスチック/ビーズとなり、海洋生物の生態に甚大な影響を及ぼす。また、多くの沿岸地域では、土壌流出や水質の富栄養化が原因となり、植物や藻類の繁茂を引き起こしている。そのため、海洋生物が酸素不足で死に至るといった変化が引き起こされている。
海洋酸性化の傾向にも歯止めがかかっていない。産業革命の時代から今日まで、海洋酸性度は30%も上昇した。これは魚介類の成長を阻害し、漁業に経済損失を与えている。海洋や沿岸地域の環境の悪化は、生態系を歪めるだけでなく、地域住民の生活を脅かすことに繋がる。
さらに、過剰漁業や違法漁業(IUU漁業)も深刻な問題である。世界の漁獲量の2割が違法漁業によるものと推測されている。過剰に捕獲された魚種が、生物的に持続可能なレベルに戻るにはおおむね20年が必要となる。開発途上国では過剰、違法漁獲に関する規制や管理体制が整っておらず、早急な整備が必要である。一方、消費者側にも水産資源と環境の持続性に配慮して水揚げされた水産製品(サステナブル・シーフード)を積極的に活用するような意識が求められる。
ゴール14は14.1から14.cまでの10個のターゲットから構成される。14.1では海洋ゴミ等による海洋汚染の防止が目指されている。14.2は海洋及び沿岸での生態系の回復、14.3では特に海洋酸性化への取り組みが取り上げられる。14.4と14.6では水産資源の保護のために過剰な漁業を抑制するための措置が提示される。実施体制に関する14.aから14.cのターゲットでは、ゴール14の達成のための研究開発の促進や国際法の順守が求められている。
ゴール14のターゲット
14.1 | 海洋汚染を防止・削減する |
14.2 | 海洋・沿岸の生態系を回復させる |
14.3 | 海洋酸性化の影響を最小限にする |
14.4 | 漁獲を規制し、不適切な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する |
14.5 | 沿岸域及び海域の10パーセントを保全する |
14.6 | 不適切な漁獲につながる補助金を禁止・撤廃し、同様の新たな補助金も導入しない |
14.7 | 漁業・水産養殖・観光の持続可能な管理により、開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増やす |
14.a | 海洋の健全性と海洋生物多様性の向上のために、海洋技術を移転する |
14.b | 小規模・零細漁業者の海洋資源・市場へのアクセスを提供する |
14.c | 国際法を実施し、海洋及び海洋資源の保全、持続可能な利用を強化する |
用語
生態系破壊
生態系とは、ある一定の区域に生息する生物、およびこれらの生物を取り巻く大気、水、土壌等の自然環境が相互に作用するシステムのこと。生態系破壊とは、生態系システムが外的因子の影響を受けた結果、本来継続的に働くはずの自己調節機能が維持されなくなるか完全に消滅することである(多様性の棄損、もともと生息していた固有生物種の絶滅等)。主な外的要因には、外来種侵入のほか、大気汚染、水質汚染、土壌汚染等の人為的な環境破壊が挙げられる。
マイクロプラスチック/ビーズ
陸地で適切に処理されずに廃棄されたごみは排水溝から河川に流れ着き、最終的に海へ到達する。中でもプラスチックごみは海洋ごみの6~8割を占め、微生物により分解されることがないため、徐々に破砕されながらも永久に海中を漂い続ける。海鳥や海洋哺乳類が餌と間違えて捕食し、死亡するケースが多々見られる。魚類も微細なプラスチックごみを体内に蓄積しており、生態系への深刻な影響が懸念されている。欧米では、直径5mm以下のプラスチック粒子を含む歯磨き粉や洗顔料等の製造を禁止する法律の制定など、先駆的な取り組みが広がっている。
海洋酸性化
二酸化炭素が海水に溶け込むと海洋の酸性度が高まる。産業革命以前には8.17程度であった海洋pHは、現在8.06程度にまで低下している。多くの海洋生物はpH 8を極端に下回るpH下で生存することは難しいため、酸性化のさらなる進行は食い止められねばならない。酸性化の被害を直ちに受けやすいのは、サンゴ等の石灰化生物である。酸性化は炭酸カルシウムを生成する能力に影響を及ぼすため、殻や骨格の生成不全が懸念される。酸性化のコントロールには二酸化炭素排出量の削減が不可欠だが、たとえ二酸化炭素が直ちに減少しても、表面海水が深層水と混合するには何百年もの年月かかるため、正常化には時間がかかると言われている。
IUU漁業
違法(Illegal)・無報告(Unreported)・無規制(Unregulated)で行われる漁業のこと。禁漁海域での漁業、禁漁魚種の漁獲、乱獲などにより海洋資源の持続性を棄損するだけでなく、国際的な資源保全ルールを順守して操業する漁業従事者に不公正な競争と経済的な損失を強いることにつながる。また、漁業従事者の強制労働・搾取、麻薬・武器の密輸などの組織犯罪との関連等、社会的な問題も指摘されている。IUU漁業の撲滅に向け、IUU漁船の国際的な取り締まり体制の強化や漁業証明制度の導入に加え、2016年に発効した「違法漁業防止寄港国措置協定」 により、IUU漁業により漁獲された水産物の国際的な流通の防止が図られている。
サステナブル・シーフード
水産資源と環境の持続性に配慮して水揚げされた水産製品のこと。第三者機関の審査により得た魚モチーフの認証マークを表示することで、消費者に、サステナブル・シーフードであることを明示的にアピールできる。天然の水産物に対する認証がMSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)認証で、水産資源の持続可能性に配慮した管理、漁場の生態系に与える影響の最小化、法令や規則の順守等が認証の条件である。一方、養殖水産物の認証がASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)認証で、養殖場の建設や薬物の過剰投与により環境に大きな負担をかけず、適正な労働環境を確保し地域社会にも配慮して養殖された水産物であることが求められる。