持続可能な生産消費形態を確保する
食品廃棄や有価物の投棄等の行為は資源の浪費にほかならず、持続的開発を阻む要因となる。ゴール12では、より少ない資源を使いながらも、良質でより多くのものを得るような生産と消費の形態が求められる。そのためには、生産工程における廃棄物の発生を抑えること、消費者側にリサイクルやリユースへの協力を求めることなどが必要である。
例えば食品ロスについては、消費者庁によると日本では年間に643万トンの食品ロスが発生している。これは、飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量(約380万トン)の1.7倍に相当する。フードロス(食品ロス)の削減などに向け、産業界、消費者、政治家、メディア、地域共同体を動員して、持続可能な生産と消費の形態を作ってゆくことが目指される。近年では、人や社会・環境に配慮した消費行動であるエシカル消費、あるいは個人の保有資産を他と共有し無駄を省くシェアリングエコノミーといったアプローチが注目を集めている。
ゴール12は12.1から12.cまでの11個のターゲットから構成される。12.1は「国連持続可能な消費と生産10年計画枠組み(10YFP)」についてのターゲットである。これは、世界全体として低炭素型ライフスタイル・社会システムの確立を目指すことを目的に設定された。世界の全ての国々に対して、持続可能な消費と生産に向けた対策を講じることを求めている。12.2では、2030年までに天然資源の持続可能な管理と効率的利用を達成することが目指される。資源の循環と再生可能エネルギーの使用など、循環型経済(サーキュラー・エコノミー)のモデル開発することが一つの方策となる。これに向けた具体的な取り組みとして、12.3は食料廃棄の削減、12.4は化学物質等の放出量の削減、12.5はリデュース、リユース、リサイクル(いわゆる3R)を通じて廃棄物の発生を抑えることを求める。
続く12.6と12.7は、企業と行政機関の取組みに関するターゲットである。12.6では企業に対して、持続的開発への取り組みをサステナビリティ報告書等で定期的に報告することが求められる。その参考資料としては、ISO26000やSDGコンパスといった手引き書が発行されている。ステークホルダーとの協議を通じ、マテリアリティを特定した上で、自らのSDGsへの取り組みを整理するプロセスが、企業には必要である。12.7は政府に対して持続可能な公共調達を進めることを求めている。12.8では人々に持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報を普及させ啓蒙することがテーマとなっている。カーボンフットプリント、あるいはマテリアル・フットプリントといった概念を普及させ、情報を開示してゆくことが、こうした意識の啓発に繋がるであろう。
12.aでは途上国の科学・技術分野への支援、12.bは観光分野における持続的開発がもたらす影響の測定支援がテーマである。12.cでは浪費的な消費につながるような経済政策の転換について問題提起している。
ゴール12のターゲット
12.1 | (持続可能な消費と生産に関する)「10年計画枠組み」を実施する |
12.2 | 天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する |
12.3 | 世界全体の一人当たりの食料廃棄を半減させ、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減らす |
12.4 | 化学物質や廃棄物の適正管理により大気、水、土壌への放出を減らす |
12.5 | リデュース、リユース、リサイクルを通じて廃棄物の発生を減らす |
12.6 | 企業に持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する |
12.7 | 持続可能な公共調達を促進する |
12.8 | 持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする |
12.a | 開発途上国の持続可能な消費・生産に係る能力を強化する |
12.b | 持続可能な観光業に対し、持続可能な開発がもたらす影響の測定手法を開発・導入する |
12.c | 開発に関する悪影響を最小限に留め、市場のひずみを除去し、化石燃料に対する非効率な補助金を合理化する |
用語
フードロス
「食べられるにもかかわらず廃棄される食品」のことである。日本におけるフードロスの量は、年間約632万トン(2016年10月時点)と推定されている。その約半分に当たる302万トンは家庭にて発生しており、食べ残しや消費期限切れ等が理由となっている。また、残りの330万トンについては食品メーカーや小売店、飲食店で発生しており、売れ残りや客の食べ残し等が原因となっている。食料資源の有効活用および環境負荷への配慮から、フードロスの削減が目指されている。
エシカル消費
「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会・環境に配慮した消費行動」のことである。エコマーク商品やリサイクル製品の購入による「環境への配慮」やフェアトレード認証製品や寄付付き商品の購入を通した「社会への配慮」、障害者支援につながる商品の購入による「人への配慮」に加え、被災地産品の応援消費なども、エシカル消費に含まれる。
シェアリングエコノミー
「個人等が保有する活用可能な資産等を、インターネット上のマッチングプラットフォーム等を介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動」である。時間やスキルなど、無形のものも「活用可能な資産等」の中に含まれる。主な例としては、住宅の全部または一部を活用して旅行者等に宿泊サービスを提供する「民泊」や、登録を行った複数の会員間において特定の自動車を共同使用する「カーシェアリング」等が挙げられる。
国連持続可能な消費と生産10年計画枠組み(10YFP)
各国からの拠出金により設立された基金を通して、世界全体として低炭素型ライフスタイル・社会システムの確立を目指すことを目的に設立された枠組みのこと。平成24年6月にブラジル・リオデジャネイロで開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)において、採択された。
循環型経済(サーキュラー・エコノミー)
資源を消費して廃棄するという従来の一方向の経済に対し、リサイクルや再利用、シェアリング等により可能な限り資源を循環させ、新たな天然資源の投入や廃棄物の発生を抑える経済モデルを指す。これにより、経済成長に伴う環境への負の影響の削減が期待される。
ISO26000
ISO(国際標準化機構)が発行する、組織の社会的責任に関する国際ガイダンス規格。社会的責任を「企業の意思決定や事業活動が環境や社会に及ぼす影響への責任」と定義し、7つの中核主題(①コーポレートガバナンス、②人権、③労働、④環境、⑤事業慣行、⑥消費者課題、⑦コミュニティ開発)の下、具体的な36の課題と、課題解決に向けた300以上の行動や期待事項を挙げている。
SDGコンパス
企業がSDGsを経営戦略に取り込むためのステップを示したガイドラインで、2015年に、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)、国連グローバルコンパクト(UNGC)、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が作成した。事業にSDGsがもたらす影響を解説するとともに、①SDGsを理解する、②優先課題を決定する、③目標を設定する、④経営へ統合する、⑤報告とコミュニケーションを行う、という5つのステップを追って、SDGsを企業戦略の中に主流化させるための具体的方策を提案している。
マテリアリティ
もともとは、財務情報において組織に重要な影響を及ぼす要因という意味で用いられていたが、近年はCSRやサステナビリティの文脈で、企業活動が社会・環境に与える影響をステークホルダーからの視点も交えて検討し、取り組みの優先度が高いと特定された課題のことを指す。GRIスタンダードでは「組織が経済・環境・社会に与えるインパクトの大きさ」と「ステークホルダーの評価や意思決定に及ぼす影響の大きさ」という二つの視点を検討して決定することが求められている。
カーボンフットプリント
商品やサービスのライフサイクル(原材料調達から生産、流通、廃棄・リサイクルまで)において排出される温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算して、商品やサービスにわかりやすく表示する取り組み。個人や企業の活動にも応用できる。これを通じて、企業はサプライチェーンを構成する企業と協力して、さらなる二酸化炭素の排出量削減を推進することが期待される一方、消費者も低炭素な消費生活へ適応する行動変化が求められている。
マテリアル・フットプリント
「国内最終需要を満たすために消費された天然資源量」のことである。こうしたフットプリントにより、ある国の経済が環境に及ぼした影響の大きさがわかる。持続可能な社会へ向けて、削減の必要がある。