各国内及び各国間の不平等を是正する。
ゴール10では、人々の間の不平等、さらに国家間の不平等に関する問題が取り上げられている。ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けた努力を通じ、極度の貧困は大幅に減少し、初等教育と健康の成果へのアクセスが改善された。だが、不平等の是正は進展しておらず、高所得層と低所得層の格差はむしろ拡大している。現在、世界の富のほぼ半分は人口のわずか1%が所有しており、これは世界における所得下位半分の人口の総資産の65倍にも相当する。
機会の不平等は、健康、教育面の進歩を妨げ、まともな生活を送るために必要な人間の能力を損なう。多くの国で、特に若年層の失業や貧困が深刻化している。不平等の拡大は、政治的および社会的緊張を高める可能性があり、状況によっては内乱や地域紛争を引き起こすことになる。また、性別や年齢、障害、人種、民族などを理由とする差別についても、国内の所得格差の是正を進めるうえで妨げとなる。社会、経済、政治分野での多面的な対応が必要である。
ゴール10は10.1から10.cまでの10個のターゲットから構成される。10.1では低所得世帯の所得増加がテーマになっている。10.2では、多様な人材の活用(ダイバーシティの確保)を通じ、全国民への平等な能力強化と経済機会を提供することが目指される。特に、脆弱な立場に置かれる人々の参画を促す「社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)」のアプローチが重要となる。
そして10.3と10.4では、これらを実現するための法律、慣行、政策等を整備することが課題となる。10.5と10.6は不平等是正に向けた取り組みが課題となっており、国際的な金融規制の実施強化、それに向けた開発途上国の発言力拡大がそれぞれ目指される。10.7では、途上国の貧困世帯にとっては重要な収入源である移民労働の問題が取り上げられる。さらに、実施体制に関するターゲットである10.aと10.bでは、途上国にとっての貿易促進と資金流入拡大がそれぞれ求められている。
ゴール10のターゲット
10.1 | 所得の少ない人の所得成長率を上げる |
10.2 | すべての人の能力を強化し、社会・経済・政治への関わりを促進する |
10.3 | 機会均等を確保し、成果の不平等を是正する |
10.4 | 政策により、平等の拡大を達成する |
10.5 | 2世界金融市場と金融機関に対する規制と監視を強化する |
10.6 | 開発途上国の参加と発言力の拡大により正当な国際経済・金融制度を実現する |
10.7 | 秩序のとれた、安全で規則的、責任ある移住や流動性を促進する |
10.a | 開発途上国に対して特別かつ異なる待遇の原則を実施する |
10.b | 開発途上国等のニーズの大きい国へ、ODA等の資金を流入させる |
10.c | 移住労働者の送金コストを下げる |
用語
機会の不平等
平等には一般に、機会,資格,権利など形式的処遇における等しい扱いを求める「機会の平等」と,個人の社会的相互作用の結果生じた所得や富の不当な格差の是正を目指す「結果の平等」がある。今日では民族や性的マイノリティー、障害者、HIV陽性者、移民、難民を始めとする特定の社会集団が教育や政治的参加の機会を奪われることにより、階層間の社会移動が起こりにくくなり、貧困の世代間連鎖や社会の分断が懸念されている。市場原理を掲げる新自由主義では自由競争の活発化のため機会均等が重視される一方、社会民主主義に基づく福祉国家では結果としての福祉の平等が支持される。
差別
差別とは年齢、性、人種、皮膚の色、世系又は民族的、種族的出身、カースト、障害、宗教、嗜好、経済的地位等の差異に基づくあらゆる区別、排除、制限または優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し、または行使することを妨げ、害する目的または効果を有するものをいう。人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、障害者権利条約など主要な国際人権条約の多くには差別禁止条項があり、批准国はそれらを国内法に反映させる義務を有する。
所得格差
所得格差は、一般に1に近い程不平等を表すジニ係数で示され、ジニ係数が高い程社会不安が増すと考えられている。日本においては1995年に0.323であったが2009年には0.336へ変化している。MDGsに次ぐ開発課題の議論において、IMFや格付機関は、低所得者の増加は、イノベーションとグローバル競争への適性を持つ人材を不足させ、経済全体の生産性を低下させ成長にマイナスの影響を及ぼすと指摘した。このように、絶対的貧困に加えて不平等の是正はSDGsにおける主要なテーマとして設定されており、所得分配による人的資本への投資の刺激、社会・政治の安定が期待されている。
ダイバーシティ
人材や働き方が多様化に伴い、多様な属性(男女、ジェンダー・アイデンティティ、性的指向、年齢、国籍、文化、民族、宗教、出自、障害、体格、経済状況など)による差異を許容し、対等な関係性の下に組織内・地域内の調和をめざすことが求められている。「ダイバーシティ経営」は多様な人材を活躍させることによりグローバル化や少子高齢化の中で人材を確保し、多様化する市場ニーズやリスクへの対応力を高める。
社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)
差別による社会的排除に相反する概念、状態または過程。格差を是正する政策の理念的根拠とされることが多い。1980年代末に起こったEU内の失業・貧困問題を克服する政策議論に端を発しており、所得保障だけでなく権利やシティズンシップの付与、制度からの排除を問題とすることが特徴である。このため、脆弱な立場に置かれる人々の潜在能力が発揮されるよう社会の変容を目指す積極的福祉や、雇用や選挙におけるクオータ制度などの積極的是正措置などの政策が選好される。一方でこうした措置は、対象となる特定の集団の社会的立場を固定化し、スティグマを強め、不平等が解決されないというジレンマが指摘されている。