産業開発は、途上国の経済成長の原動力となるものです。産業開発が幅広いセクターと関わり、より高い付加価値と雇用を創出し、社会の安定を保つことによって、経済成長が実現されていきます。現在、途上国においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)による新しい経済・産業社会が生まれようとしています。こうした状況に応じた産業基盤の整備や人材育成を進める必要があります。また近年は、途上国が外国直接投資に力を入れ、日本企業も途上国を有望市場として事業展開しています。民間セクター開発や民間連携を促進することによる持続的な経済成長への期待が高まります。
IDCJは、産業開発セクターにおいて、アジア・アフリカ・中南米の世界各地での産業振興に関わる各種調査の実施や産業人材の育成に携わっています。最近は、アフリカや中近東の投資促進に関わる業務や地域観光開発、アセアン諸国での高度産業人材の育成に重点的に取り組んでいます。また、JICAの民間連携事業にも世界各地で積極的に参画しています。
ペルーは4000年以上の長い歴史を持ち、古代アンデス文明、インカ文明、植民時代、近現代の歴史遺産や各時代の文化が蓄積され、これら資源を活用した観光産業が盛んです。北部のアマソナス州ウトゥクバンバ渓谷上流地域もクエラップ遺跡を始めとした歴史遺産や、歴史の中で培われた文化が現在の生活の中に息づき、人々の生活とアマゾン川源流の自然が織りなす景観(文化的景観)の美しい場所です。
一方で、この地域はまだ観光地としてはあまり知られていません。また、COVID-19だけでなく、地震・大雨などによる被害も受け、地域経済は停滞しています。そのため、文化・自然遺産を保全・活用しつつ、観光関連ビジネス振興を両立する持続可能な観光開発モデルの構築が求められていました。
日本は、2019年4月からこの地域で「屋根のない博物館」をコンセプトとするエコミュージアム手法を用いた文化的景観の保全と持続的な観光開発のモデルの構築に取り組んでおり、IDCJはこのプロジェクトに携わっています。コロナ禍が落ち着きを見せた2022年春以降は、パイロットプロジェクト活動に取り組み、コミュニティの人々が文化的景観の保全と観光活動に携わる活動に取り組んでいます。2023年後半と2024年にはペルー国内の旅行会社、メディア、インフルエンサーを招来するツアーを複数開催しています。同時に、カウンターパート機関である文化省と地方政府の職員の文化的景観の保全及び観光産業振興のための能力強化にも取り組んでいます。
インドネシア国ジョグジャカルタ特別州のクロンプロゴ県に、円借款事業により建設されたガジャマダ大学フィールドリサーチセンター(FRC)の施設・設備を活用し、大学・地域産業者・地方政府・コミュニティが連協・協働して社会経済課題の解決に取り組むための能力強化プロジェクトに取り組みました。
活動内容は、FRC内に設置されたファブラボ(FabLab)を適切に活用出来る人材を育成することを目的としたデジタル製作技術研修の実施、FabLabに必要な機材の調達支援、概念実証(PoC: Proof of Concept)に係る活動の支援、産官学地協働の支援の4つです。
デジタル製作技術研修は、大学の教員が、米国MIT発の研修プログラム「ファブアカデミー」を受講することを技術面・資金面から支援しました。受講者は、国際水準のデジタル製作技術を修得すると共に、世界のFabLab関係者とネットワークを構築しました。
PoCでは、地方政府・企業・関係機関・学生等の参加によるアイディアソン(Ideathon)を開催し、3つのテーマ(スマート農業、乳製品加工、森林資源リサイクル)について課題解決を図るべく、協働でプロトタイプのデザインに取り組みました。そのデザインに基づいてプロトタイプ製作に取り組んだ結果は、地方政府・大学・地場産業・コミュニティに対し、セミナーの場で発表・共有されました。このような取り組みの経験をふまえ、ガジャマダ大学のFRCを拠点に、引き続き産官学地が連携を拡充し、ジョグジャカルタ地域の社会経済課題の解決に取り組んでいく主旨の共同宣言が行われました。
また、クロンプロゴ県に新設された国際空港の周辺地域を対象に、ジョグジャカルタ特別州が構想を策定した「エアロトロポリス開発計画」においても、ガジャマダ大学FRCの機能を活用し、地域の社会経済課題解決の活動展開を拡充するプログラムが含まれることになりました。このように、ガジャマダ大学FRCが地域の課題解決において、今後も重要な役割を果たしていくことが期待されています。