訪問者:渡辺 聖也
訪問期間:2015年8月6日~9日(4日間)
こんにちは。「アンコールの森」再生支援プロジェクトチームの渡辺聖也です。 IDCJでは、2006年から現地NGOの「アンコール遺跡の保全と周辺地域の持続的発展のための人材養成支援機構 (JST)」と連携し、「アンコールの森」再生支援プロジェクトとして、植樹を中心に環境保全、環境教育活動等を実施してきました。植樹については一定の成果を得ることができたため、2014年10月からは三井物産環境基金の助成を 受け、「アンコールの水環境」再生プロジェクトを開始しました。トンレサップ湖を代表とするアンコール遺跡周辺の豊かな水環境を保全し次世代へ受け継いでいくために、バイヨン中学校の生徒達が水環境の重要性を学び、関係者に知見を共有することを目的としています。
今回、私は三井物産環境基金助成活動の初年度下半期のモニタリング(半期に一度モニタリングを行います)として、現地を訪れました。
バイヨン中学校では、シェムリアップ淡水魚研究所所長の佐藤智之さんを講師として、月1回のペースで「水環境と水辺の生物に関する授業」を行っています。バイヨン中学校の2年生がカンボジア在来魚の生態や生息環境について知識を深め、水資源の重要性や人々の活動が水環境に及ぼす影響について学ぶことが目的です。全10回の授業の後、生徒達による授業内容についての発表会が行われました。(8回目まで様々なテーマで授業が行われ、9、10回目の授業で4つのグループに分かれて学習内容を模造紙に書き発表の準備を行いました。)
本番前日にしっかり練習をし、当日は水資源省の方、仙台からスタディツアーで訪れていた高校生を前にして発表を行いました。まず1グループ目が8回目までの授業内容の概要について発表しました。2グループ目は人と魚の感覚器官の違いについて図を比較しながら説明しました。3グループ目は川で魚を捕獲し、スケッチをした際の活動を写真を使いながら発表しました。捕獲した後はゴミ拾いも行ったそうです。そして自分たちで作成した魚のスケッチを使いながら、それぞれの魚の特徴についても説明しました。4グループ目は周りの大人たちを対象に行った昔と今の水環境の違いについてのアンケート結果を発表しました。また、理想的な水環境と悪い水環境のイラストを比較し、水環境を守るためにどのような行動をとるべきかについても提案しました。
どのグループでも授業での学習内容が分かりやすく模造紙にまとめられていて、前日の練習のおかげで発表もスムーズに行われました。私も知らないような魚に関する細かい知識も生徒達はよく知っていて、授業で習ったことが身についていると感じました。ただそれ以上に印象的だったのは、その知識を水環境の保全・向上のために役立てようとする生徒達の意識でした。例えば、4グループ目の水環境の比較イラストは生徒達が自主的にアイデアを出して作成したそうです。知識として学ぶだけでなく、実際に川に行って魚を捕獲する体験をし、身近な大人に話を聞くことで、水環境保全を自分たちの問題として考える意識が芽生えたのではないでしょうか。
発表の前に生徒に授業前後の変化について質問をしてみたところ、知識面では授業によって知っている魚の種類が20種類程増えたとのことで、行動面ではゴミをゴミ箱に捨てるようになり、川に落ちているゴミを拾うようになったとのことでした(実際に生徒が授業後に教室をほうきで掃除していて、ゴミはゴミ箱に分別して捨ててありました)。また、授業の内容を親や兄弟、友達に話したという生徒も多く水環境保全の知識が拡がることが期待されます。
水環境の授業で学んだ知見を共有するため、日本語ができるJSTのカンボジア人スタッフが中心となり、水環境図鑑の作成に取り組んでいます。現在、図鑑の構成と鉛筆での下書きはほぼ完成しています。これからバイヨン中学校の生徒にも魚のイラストを書いてもらい、絵の具で色を付けていきます。小学生に対し水環境の知識と魚の生態について知見を共有することを目的としているため、絵や図、クイズなどが多く使われており、子供にも分かりやすく興味が持って読める図鑑になりそうです。
もう一つの重要な活動として、バイヨン中学校の敷地内でナマズの養殖を行っています。18m×23mの養殖池には現在約4,000匹のナマズが養殖されており、生徒達が試食した後、販売して2年目以降の活動資金に充てる予定です。養殖池の半分以上には水草(ウォーターヒヤシンス)が植えてあり、普段ナマズは暑さをしのぐためにこの水草の日陰の下にいます。そのため普段は外からナマズを見ることができませんが、エサを撒くと一斉にナマズが寄ってきます。食べられる大きさ(25cm~30cm)になるまであと1~2ヵ月かかりますが、順調に成長しています。
この養殖池には様々な工夫がしてあります。例えば、池の上にはライトが設置してあります。光に集まる習性のある虫はこのライトにおびき寄せられ水の上に落ち、その虫をナマズが食べます(実はカンボジアの田舎では、同様にライトの下に水を溜めておくと、食べられる虫が落ちて水の上に浮いているので、それを炒めて食べます)。人間も食べるほどなので虫はナマズにとって良質のタンパク源になっています。また、ナマズが盗難に遭うことを防ぐため、養殖池の周りには柵が設置してあり、さらに養殖池のすぐ隣に小屋を作り、バイヨン中学校の生徒が交代で寝泊まりをしながら見張りをしています。
2010年からIDCJ職員が現地を訪れる際には、現地の青年グループや中学生に向けて勉強会を行っています。過去には「東ティモールの改良かまど」「投資とは何か」「ブラジルとラテン音楽」「ガーナとトーゴの日常生活」などのテーマで行いました。
今回はバイヨン中学校の生徒に対し、「カンボジアと近くの国々」と題し、カンボジアとそれに国境を接するタイ、ベトナム、ラオスについて相違点・共通点について話しました。建築物、食べ物、言葉について、それぞれどこの国のものかクイズを交えながらの発表に対して、積極的に手を挙げて答えを発表していました。共通した部分も多くありながら、異国の違った文化に興味を持っているようでした。
JSTが主催しているアンコールクラウ村ツアーに参加しました。このツアーではカンボジア農村の風習、文化を体験し子供たちと交流することができます。竹筒おこわ作り体験や、焼酎作りの農家見学、アンコール時代の遺跡訪問、村のフリースクールでの子供たちとの交流など、普通の観光ツアーでは体験できないカンボジア農村の生活について触れることができました。そこで印象に残ったのはカンボジアの人々が自然とうまく調和して暮らしていることでした。竹筒おこわの竹は庭に生えている竹を利用しており、バナナの葉をお皿として利用していました。また、至るところに様々な種類の果物があり、貴重な食料として育てられていました。
しかし、近年カンボジアでは森林が減少しており、村の青年やJSTのドライバーの方もそれを心配していました。一方、約10年前に本プロジェクトが始まった頃に植樹をしたコキの木は、木によって育ち具合にばらつきがありますが順調に育っており(民家の前の木のほうが残飯などを捨てるためか、栄養が行きわたっており、大きく育っていました)、活動継続の効果が見られました。カンボジア農村における自然と調和した生活を守っていくためにも、水環境を含めたアンコール遺跡周辺の自然環境の保全が重要であることを再認識しました。
私の滞在中には、仙台からスタディツアーに来た高校生、子供との交流とボランティア活動を行った大学生サークル、アンコールクラウ村ツアーに参加した観光客など、日本から様々な方が訪れており、日本との交流が積極的に行われていました。
最後に、今回の滞在中はJSTの皆さまに大変お世話になりました。また、日頃より幣センターの活動にご支援をいただいている皆さまにも改めて御礼申しあげます。今後ともご支援の程よろしくお願い申し上げます。